彼女のことを、いっこだけ
土曜日の午前
いつも同じ気分
黒いGARCONSの襟のついたワンピイス
新潟に来て十一年
まだ季節の変わり目が分からない
私は朝から何も食べていなかった
食べていないからには空腹であるべきだと思ったし
私の魔法使いは約束の時間までは現れないので
店に入って何か胃に入れようと思った
アイスコーヒー、とそれから何か食べるものを注文しようとするが
メニューを見た途端に何故か
その「何か」を食べる気が失せてしまう
結局妥協案として桃とラズベリーのミルクシェイクを注文した。
その飲み物には或る名前のための名前、
例えばスプリングピーチスペシャル
などと大仰な名前がつけられているが
私には気恥ずかしさからその名を呼ぶことが出来ず
メニューを指さして
これを、
注文を終えて視線を店内に向ける
二十代半ばくらいだろうか
テエブルに着いた若い女が
紙コップに注がれたお湯にティーバックを沈めている
ポットサーヴィスだったらよいのに
やがてシェイクが運ばれてくる
ガラス越しに木は揺れていた
私はそれを見ているしかなく
ストローを咥えたが
思うように吸いこむことが出来なかった。
書:坂本パルコ