生きるためにパイを焼く
女は思い出したように
レモンパイを焼いた
なんとなくだ
いのちにはそれ以上の事情が表明されていない
ある朝
ネコの死体が市の指定の袋につめられて
ゴミ集積所に放ってある
半透明は丸みをうきあがらせ
どうやらいまだに生ぬくい
陽光に照らされているのは
何故なのだろう
遠くからみていた
オーブンの熱では
歓喜や悲哀はすこしも減らない
人生は短くて
たった数回パイを焼いたら必ず終わる
黙っていた
もうずっとずっと黙っていた
書:武田地球