カンボジアの果物係り
ピカピカの服を着ていたカンボジアの果物係りの少年は
20年もおなじ係りをしているうちに
果物のことが何にもわからなくなってしまった
それでも果物係りはその場所にしがみついて
コンビナートの機械みたいにセッセと果物を捌いては、ひとり安心をしている
この道は引き返せないと思いこんでいる
アンコールワットでミルクフルーツを割ったとき
果物係りの夢だったものがジトリと流れ落ちて、わたしの頬が上気した
彼がビー玉の目で、ジイッと見ていた
なんだかいっそうやりきれなくて
20年も着古した帽子を借りておどけてみせた
果物係りはケラケラと笑っていた
夕暮れ、行きかう人たち
幾ばくかの祈りを捧げて
一日が、閉じていく
書:武田地球