彼女のことを、いっこだけ#02
さっき電車に私は
もの思う部分を
おいてきちゃったみたい
そんな気がするんです
夕暮れは、揺れても揺れても終わりがないようだった
そんなはずのないことなど分かっているのに
読みかけの本を落とし
スカアトを直し吊革を握る
流れる景色は落ち着かずドアも開かない
怖くはなかった
終わりはいつまで終わらないのだろう、という映画の台詞を思い出していた
それがいったいなんの映画だったのか、
大体それは映画だったのかさえ思い出せなかった
うわのそらで立っていたので
一瞬
力を入れるのが遅れる
前に突き出てやっと止まった
まだ痛みを伴わない傷みが
不思議なほど心地よくて眠たくなる
頁をめくった風をおいかけてみる
そして身体は
誰かを押しのけていることにも気付かない
書:坂本パルコ