鍋とペンペン草

空き地の真ん中に、雪平鍋がおいてある。
内側が黒く、焦げついているようだ。
捨てられてしまったのだろうか。
今日は春のよい天気で、そんな鍋にも陽がさしている。

雨が降った日、まだ鍋がある。
すこしの水を湛えて、むかしを思いだしているのかもしれない。
空き地の真ん中、鍋はひとりで水を湛えている。

さあ、春といえばペンペン草だ。
鍋のまわりにたくさんのペンペン草が生えた。
ペンペン草はついつい風にそよいでいるが、
傍らで鍋は、まだじっとしている。

書:武田地球

春秋蜜柑

発行日:2021年5月8日
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