カンボジアの果物係り

ピカピカの服を着ていたカンボジアの果物係りの少年は
20年もおなじ係りをしているうちに
果物のことが何にもわからなくなってしまった

それでも果物係りはその場所にしがみついて
コンビナートの機械みたいにセッセと果物を捌いては、ひとり安心をしている
この道は引き返せないと思いこんでいる

アンコールワットでミルクフルーツを割ったとき
果物係りの夢だったものがジトリと流れ落ちて、わたしの頬が上気した
彼がビー玉の目で、ジイッと見ていた
なんだかいっそうやりきれなくて
20年も着古した帽子を借りておどけてみせた
果物係りはケラケラと笑っていた

夕暮れ、行きかう人たち
幾ばくかの祈りを捧げて
一日が、閉じていく

書:武田地球

春秋蜜柑

発行日:2021年5月8日
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