彼女のことを、いっこだけ#03
さわ山の大福と香里鐘とマキコさんの家
にしか用のない街古町にはドトールコーヒーが在り
時間にはまだ早かったのでアイスコーヒーとミルクレープを注文すると
ガムシロップとミルクはこちらからお取りください
と促される
店内では
あの古きよき夢を、とカレンが歌っている
本を読む
後ろの席でジム帰りの中年女性が二人
鞄から菓子を出して相続税の話を始める
自動扉をニュルリとぬけて
鬼門に入る
用事があるのだから仕方がない
仕方がないから
シブシブに
と見せかけて
万代で鬼門入りした
本当は入りたくて仕方がないので入った
あの人の車内でかかっていた曲
ずっとかかっていたあの曲を
買って帰ろうとして
入れられているばかりでは芸がないので
私は鬼門に入ろうとする
入ろうとして入ったら夜の果てで
「・・・うわ
せっつなーーーァッ
ここにあのヒトがいるみたぁーーいッ‼︎!」
何万光年
離れたところ
きみとふたり
くちづけをした
思わずでそうなクシャミを止めて
私は咳に似たナニカをした
書:坂本パルコ