知らない街のモスバーガー篇
parco sakamoto × chiQ takeda
知らない街のモスバーガー篇
物語を書いている
まるで
それだけが彼女を救ってくれるかのように
救う、という言葉は正しくないかもしれない
彼女はそんなことすら意識していないのだったから。
誰であろうと
意識することなく何かに救いを求めている
けれど他にするともなく、ただ、
何かに救いを求め続けるのだとしたら
いつか疲れ切ってしまう
救いなど、自らの中にしかない
外部からもたらされたものなど
いつか消え去ってしまう
いつもそばにいる幸せは
ある意味そんなもので
ある意味ひとりぼっちなものなんだ
足早に過ぎ去ってゆく、
私とあなたの間の唯一の静止画像
それは
闇だったか
光だったか
移ろう世界の唯一の静止点。
4丁目の公園にあるのは
白馬の抜け殻
ひとりで宙をみている
街の人たちは
こころなしか疲れているのかもしれない
どこへも行かれない夜があったり
広くて仕方のない夜があったりする
街にはいつも季節が来る
去年とは
ぜんぶがすこしずつ違う6月が
あの白馬の抜け殻のところにも来る
かといって
なにかが起こるわけでもない
けしてあきらめるわけでもない
ただ続く
白馬の抜け殻には
静かな目がふたつある
居酒屋の前でまだ帰らない学生たち、
ゆっくりと帰路に就く夏の女子高生、
後ろでに手をつなぐ幼児と若い父親、
男と女が歩いている、鼻を突き出すようにして
風の匂いを嗅ぎ、嬉しそうに、というのは
こちらの推測でしかないが、ホントウに嬉しそうに歩く。
ハッピイというものを形にすると、こういう匂いになるらしい。
夏の日の朝の匂い。アイスを取りに冷凍庫を開けた匂い。
よく乾いた洗濯物の匂い。何故か、踊りだしたくなるような。
16時に浴室から出る、電気の点いていないキッチンに
眩しい西日が入り込んで
なんだかよくわからなく嬉しい。
匂いは、形ではない。
匂いは、閉じ込めることが出来ない。
匂いがしないものなど、信用出来ない。
明日
死んじゃうかもしれない。
だから
今ここでこうしている。
今を
こうしている
まだまだ、
こうしている。
ホントーにうれしい。
しあわせ。
みたこともないサンドイッチをつくる
ふらりとやってきた恭子が
この街を挟もうとしている
あのビルも小学校も夏雲も
サンドイッチにしようとしている
連日の猛暑日
扇風機のボタンを
意味も無くもう一度押す
今日が暮れたら今日が消える
さっきまでいた人がふっと居なくなってしまう
あらゆる変わって行くものを
サンドイッチにできたらいいのに
夏だからとても愉快だと笑い
恭子は緑が騒々しい、
みたこともないサンドイッチをつくる
あの晩は
そう
何処へ行くともなくただ漠然と
歩いていた
路が続くがまま
歩を進めてゆく
身を委ねる
何度も何度も現実から逃げ出しては
誰もいないのをこれ幸いと
何に隠れるでもなくただ
連れ戻しにきて呉れるのを待っている
私は白馬です。
走り疲れて立ち止まると辺りはしいんと静かで
息する音だけが聞こえる
ふと見上げる空には銀色の月ひとつ
夜だというのに月には影の気配もなく明るかった
白馬は、
月を見上げる。
篠つく雨を
焚き付けて
私たちは振り出しに戻る
断続的に
濡れそぼる
かわいそうな二人
頭からつま先まで
着衣のまま
吹き抜けて
帰るところもなく
蛙みたいな顔で
やおら、
たたずんでしまう
雨の中
ビニール袋に引っ張られ。
晴れの日はきらい
ふたりは雨の街に住む
通りを行く車が水を跳ねる
その音を信仰する
傘はささない
あらゆる水のつぶを
けして裏切らない
すべてを赦す
それでもいつか
きっと晴れたりしてしまう
「空から来たから空へ還る、
また来るかは知らない」
晴れの日にひとり、傘をさす
あとは何もない
1丁目からぜんぶ雨降り
人は幾らか重くなる
公園の遊具が湿気る
郵便は滲む
どの道を選んでも行き止まり
バスが来たり来なかったりして
確かなものなど何も無い
そんな時にもわざわざまた降る
ところが止む
「4丁目から晴れ間が広がります」
みんなそちらに駆け出す
梯子が架かる
はやく会いたい
もっともっと
もっと生きて
もっとほしい
ずっともっと
もっともっとと言っていたい
もっともっと
と言いながら
そんな私はずっと
なにをしたかったのだろう
わずかな日にあっても
永い永い夢をみる
でも
あとすこし
もうすこし
もうすこしだけ
ああきみは
エモーショナル
私たちは傘をとじて
濡れてゆけるから
夏至も中日を過ぎ
梅雨のサー・ジャンナヒィンフィルミレンゲまつりは今年も佳境に突入した
まつりが祭としてエスタブリッシュされた頃
あの神憑ったまでの情熱も今ではすっかり鳴りを潜め
全ての儀式が儀式として形骸化していることは
もはや誰の目にも明らかであったがそれでも
御神体が開帳されると民衆の間にどよめきが起こった
弁当運びのガンジーはミナールの塔の中で
現在に至っても緑の弁当バッグを保っていたのだ!
駐車場では雨が止まない
少し前に死んだきいろいクルマに
男が傘を差しかけている
訊くと羊飼いだと云う
幹線道路を飛ばして
大事な人に逢いに行った日に
鉄塔が倒れて見晴らしがよくなった
あとひとつ信号が赤だったら
逢えなかったんです
羊飼いが静かに話す
雨がそのうち止む
ふらっと近所の原信に「 夕飯の買い出し 」
に行った時、友人のお母さんに出くわしたのだけれど
私がメガネにマスクをしていたのにも関わらず彼女は
あら! 春ちゃん入院したんだって?!
もうからだは大丈夫なの!!
(もう5年も前の話だ)
から始まり、そこからひとしきり彼女のお話
が始まったのだけれど、そのあいだ中、私は
メガネとマスクをしていた私を見分けたアンタはすごい!
と思っていたことであります。
冷蔵庫を開けてから閉める
牛乳が牛の乳であることを
恭子は信じない
卵が鶏のものだということも
もちろん信じない
辻褄が合わないことばかりで
可笑しい
呆れて外に出ると雨が降る
濡れているアスファルトを
蝸牛が薄鈍に歩く
けれど蝸牛は
恭子にすこし似ている
休日の午後
ドトールコーヒー
斜め向いに座っている中年夫婦のオスの方が
しきりと視線を投げていた先には
短いスカアト
短いスカアトからは白い腿が生えていた
メスの方はそれに嫉妬し視線の先に睨みをきかせ
オスの方を急かせるように店を出て行ったが
もしかしたら3本目が生えているかもしれない
と思って見ているのは私だけでしょうか
電話口で
転調を
店の責任者だと勘違いする
メロディーの途中で
店長に襲われる
ドトールの店内で
店長に襲われる
名も知らぬ花の下で
店長に襲われる
白い皿の上で
こちらを見ている
ツナチェダーチーズサンド
曲がり角には大きな看板
〇〇病院まで一直線です
疲れて座り込む
要らない雑草は抜かれ
掌に収まらないものは溢れる
どうしてか晴れ
どうしてか空が高い
病院から
あかい風船が上がる
良いことか
或いは
悪いことがあった
どちらにしろ結末はおなじ
鳥が何処かへ飛んで行く
風に耳打ちをされて行き先を決める
バス停で見知らぬ老人に話しかけられたので
ボサノバを出鱈目に歌い遣り過す
風が吹いているのがまるで嘘のようだ
其れ、
本当は嘘なんです。ワタシ、嘘つきました。
そういった穏やかで
晴れやかな気持ちでした
風のない日の長い一日。
街を bra bra
流れているのは周りの人と次の季節。
夕暮れの街をあてもなく pra pra
莫迦げている。待っている。
静かに降りてきた夜のはじまりには、居場所がない。
ただ過ぎてゆく幾晩ものどうでもよい夜。
のろのろと歩が尾を向きかけたところに、携帯が鳴った。
「もう15分も待ってるんだけど」
恭子の声に耳を噛まれた。
私は今、
湯をかけたら茶になる塩漬けの桜の花のように
しおれているわ。
と小綺麗にまとめたりしている、が
実は昨日もキムチを食べ、
テグタンスープを飲んだので、
おかげで水を飲んでもニンニクの味がする。
湯をかけたらニンニクスープ。
永久の愛はニンニクスープの中にある
それがgrandmaの
そのgrandmaの
口癖だったみたい。
私のお休みがあまり長くないので
とりあえずグアムに行ってみた。
マリンスポーツに全く興味のない
バドワイザー飲む位だったら水!
っていうのもあり得ないから C.C. をソーダ割で!
なふたりが何故グアムか。
それは、短期間でも行った気がしそうだからです・・・
グアムは極端に寒い。
つまり、室内のことです。
ということで、到着した瞬間から寒さに震え、
翌日、肩丸出しの服を着て観光
した教会も冷房は最大限マックスで
移動する車のクーラーも強冷風直撃、
そして丸出しの肩よ ・・・
暑さと冷房で疲れたところで
夕飯に大ハシャギ、
案の定というかやっぱりというか当然というかとにかく
その翌日は大熱を出して動けなくなったのでした。
まる一日を夢うつつで過ごし翌日には
グアムにいるあいだ中夫婦で言い続けていた
何か塩っぱい汁が飲みたい・・・!
という望みも、グアムなどで飲んでも決して美味しくはないであろう
とはいえ何故か妙においしかった
じゃがいものビシソワーズ
によって満たされそして夕方便で無事帰国、
成田でサーモメーターに引っ掛かったらどうしよう
(「濃厚」接触者のちきゅうさんも成田に足止めを喰らってしまう!)
と内心怯えていたのだけれど何ごともなくスルー、
麻薬犬に尻の匂いを嗅がれることもなくやがて車で帰宅したのでした。
あーよかったよかった
めでたしめでたし
夕暮れの街にあてもなく出てゆく前ひととき素足に新しい靴を穿いてみる。
土曜の夜はとても
へそをしげしげ眺め
土曜の夜はとても
電話を待っている
だって今夜は
出てゆくかも定かではない
だって今夜は
土曜日の夜
土曜日の夜には、居場所がない。
あかい風鈴はスコールの合図
やまない雨はない、のかもしれない
というより、どうだっていい
わたしはわたしを必死に証明し
雨がやんだことに気づかない
気づくのは夕焼け時
傾いたブランコのある広い公園
鳥が落ちた果実を運ぶ
ああいうものは
どこまでも飛んで行く
樹の下にお婆さんがひとり
今日のたまごの販売は終了しました
それからすこし外れた声でうたう
ちいさな傷こそ
やがて致命傷になる
太い樹の幹は裂けてしまう
ここに来たのは
ボタンをひとつ掛け違えただけ
それでいて二度と戻ることができない
たまらず地面をみると
たまごが割れている
わたしは何も
みない方がよかった
汗がつたうと
地面に落ちる
お婆さんのうたが聞こえる
また歩く
知りたくなかった
その人の家はなかった
猫は居なかった
花粉は熟さなかった
蜂はこなかった
何も聞こえなかった
愛してる
と言ってください
誰も欲しがらなかったケーキ
誰もが切り分けられた
美味しそうなケーキの周りにいながら
それにはまるで無関心
深く眠ったら
朝起きて
もいちど
生まれ変わり
この世で遊ぼ
この
今日は
パルコ
と呼ばれるまで返事をしない と決めた
けれど
誰もそう呼んでくれなかったので
私は一度も振り返らなかった
本当は
戯れにアッチムイテをしたら
首を痛めたので振り返れなかった
パルコは破留虎と書きます
玄関で待っている
二度と帰らぬ人が
まちがって帰ってくるのを待っている
しろい花はしろいから好きだった
雨が止んだまま
傍らでは猫が泣いている
わたしは泣かずに
落とし物をあつめている
水を飲みこむと
思い出す人がいる
こんな日に玄関が開くと
きっと、まぶしい
そう思えるから待っている
待っているわたしは
しろい花を飾る
夕焼け小焼けが聞こえる
犬ならば一目散に帰る午後5時過ぎに
一人とぼとぼ家路につく
見たことのある人たちと
まるい食卓をかこむ
わたしはつられて
熱いハンバーグを食べる
すると生活は案外わるくない
布団で眠ると朝にぶつかる
「おはよう」なんて言うと
4丁目に陽が差す
考えるよりもずっと早く
変哲のないものが見えだす
おもわず嬉しくなる
今日という日がまた生まれる
どちらが先に逝くとも知らない朝
どちらが先に逝くでもない朝
南阿佐ヶ谷
台所の音が聞こえる
ヴェトナムの器を和食器に重ね
天蓋つきのベッドに青い麻の敷布
イタリアのソファに身をくつろがせ
鏡には或る詩人の手になる家電量販店が映っている
夜に向かって
名を呼んだ
声ではない
声は溶けて
名は
ひとひらのぬくもり
くちびるの上の
尽くせぬ
想い
溢れて
ながれて
花に消えた
智に働けば
バターになった虎
情に棹させば
フィヨルドの間に見え隠れする
夏至の日のムーミン
それから
日本最大のテーマパーク
ドイツ村
ぬくもりのあるうちに
名を呼んでください
私の指に
(ディスプレイにお手を触れないで下さい)
その街には羊飼いが居た
杖を傘に見立てて
羊飼いはエレクトリックマウンテンの周りを一周だけまわる
針も思った数字を指さし
腰かけていた石にアソートを残し
羊飼いは白熊に戻る
スケート靴に素足を通し
右手に掲げた
オールウェイズ
コカ・コーラ
今日も羊飼いは、
杖の端を片手で持ち、
逃げない山羊を目で追い
かけているサンダルの
素足が日に焼けていた
ヤマダ電機にはなんでもある
だから諍いは起こらない
朝はホームベーカリーでパン
コーヒーメーカーでエスプレッソ
一休みしたらイヌと散歩
ヤマダ電機に似合うのは
まんまる顔の茶毛のイヌ
午後はお客さん対応
疲れたらマッサージチェア
大画面テレビではキリバス
世界一早く朝日が昇る国
「ヤマダ電機キリバス店をつくろう」
社長も思わず快諾
ないものがないからあっという間に完成
キリバス人は大歓迎
採れたての魚と最新式のグリル
夜通しのパーティー
翌朝はここぞとばかり
ホームベーカリーにコーヒーメーカー
そして、
世界一早く、昇ってくる朝日
いまやキリバスといえばヤマダ電機
ヤマダ電機といえばキリバス
人だけではない
魚も鳥も動物も集まる
草も花も生い茂る
昼は太陽
夜は星
何一つ拒むことがないから
無いものが無い
つまりそれは愛
貴方を愛しているということ
いつも満たされている存在
空と海に囲まれた
ヤマダ電機キリバス店
おそろいのペン
おそろいのグラス
おそろいのブローチ
つがいのリップクリイム
つがいのテイシャツ
ひとつをさがす
ふたつのかたち
そんな感じ
なんとなく
知らない街のモスバーガー
僕はドライブスルーがあるって言ったけど
きみは店内で待つのもいいんじゃないかと言った
神さま
ほんとは
あんたなんていない
わたしはこんなふうに
わたしたちを手に入れるのだ
墓石に水が流れた、
おとうさんは欄干でクビを吊った、
ぬるいリンゴ水を欲しがった
入道雲はだいきらいだ、
おとうさん、おとうさん
低かった空は、とおくなって彼方だ、
屋根に三角、たわむ電線、
季節変わりの混ざりゼミ、
ひとがみんな、畑に立てられている野菜、
手首のうすい動脈をみているわたしは、
ガタン、立ち上がった朝
逢いたいな
ほんとに、できればなんだけど